2010年12月12日日曜日

あざみあざやかにあさのあめあがり

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―表象の森― リルケにとってのロダンとセザンヌ

・辻邦生ノート「薔薇の沈黙-リルケ論の試み」より –弐-

リルケはマルテと一体化することによって、<近代>の空虚な生を徹底的に経験することになるが、同時に、その空虚な拡がり・深化のなかで、それに匹敵する強度をもって、それを克服する力-求心力-を探求しなければならなくなる。
いわばこの圧倒的な水圧に抵抗して、必死で克服するプロセスが、リルケを単なる詩人から、「ドゥノイの悲歌」の詩人へと鍛え上げてゆく。というのは、問題の全体を意識しうる地点に登高する苦悩に満ちた過程で、リルケはマルテと別れ、自ら生き残る道を見出し、同時に、それが後期の詩的世界へつながることになるからだ。

この<近代>の空虚化・疎外化する生を克服するとは、リルケ=マルテにとって、生の内実・プロセスを、内側から満たすという形による快復に他ならない。それは<近代>の要求する業績-仕事の成果-万能主義に対して、仕事のプロセスこそが意味を持つとする生き方の確立だった。「ひたすら活動しつつ決して自己意識に戻らず、全的に外に向って開いた精神」―それこそがリルケ=マルテが願った生き方だった。外に向って<働く>けれど、<働いた結果>を顧慮しない意識、<見る>けれど、<見られる>ことを期待しない意識、<愛する>けれど、<愛される>ことを乗り超えた意識―それが<近代>の空疎化された生を、根底から逆転する道だった。

リルケはこの反転の契機をロダンとセザンヌから学んでゆく。それは芸術制作の場だけではなく、時間の性格をも、空間の意識をも、<近代>のそれと決定的に異質なものに変えてゆく。時間でいえば、ロダンの不屈な忍耐力、セザンヌの孤独な持続力は、計量化された<近代>的時間意識からは理解できないし、だいいちそれを実践することなど思いも及ばない。また空間における<近代>性の特徴とは、都市のビルが典型的に示すように、そこから生の内実を消去して、空虚な計量的・幾何学的・非生命的な空間となってゆくことだ。その空間を反転させ、ロダンがいかに豊穣な官能生と精緻な運動感で満たしていったか、彼の多彩な彫刻群を見れば納得がゆく。セザンヌの絵画空間の根源的な透明な重さも同じような空間の生命化の意志から生れている。そこに湛えられているのは「神さまから、永遠のむかし、わたしにつくれと命ぜられた甘美な<蜜>」なのである。この二人は<近代>の空虚化の圧力に抵抗し、心の内部をかかる<生命>の<蜜>で満たしながら、それを孤独な仕事を通して、内から外へ実現-レアリザシオン-してゆく。リルケが「マルテの手記」のなかでマルテと同化しながら一つの典型として示すのは、この<内から外へ>を純粋に徹底して成し遂げた人間たちーすなわち<愛する女>とは芸術家の原型といってもよく、<近代>が歪める以前の、人間の本源の在り方といってもいいものなのだ。それはハイデッガーが「元初の能力、それぞれのものをそれ自身へ集中する能力」と呼んだものであり、「存在者はすべて、存在者として意志の中にある」と規定した「意欲するもの」の根源の姿なのである。

―四方のたより― DANCE CAFÉ 2010 EVE

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―山頭火の一句― 行乞記再び -125
5月5日、雨、破合羽を着て一路、白船居へー。

埴生―厚狭―舟木―厚東―嘉川―8里に近い悪路をひたむきに急いだ、降る吹くは問題ぢやない、ここまで来ると、がむしやらに逢ひたくなる、逢はなくてはおちつけない、逢はずにはおかない、といふのが私の性分だから仕方がない、嘉川から汽車に乗る、逢つた、逢つた、奥様が、どうぞお風呂へといはれるのをさえぎつて話しつづける、何しろ4年振りである。―

今日ほど途中いろいろの事を考へたことはない、20数年前が映画のやうにおもひだされた、中学時代に修学旅行で歩いた道ではないか、伯母が妹が友が住んでゐる道ではないか、少年青年壮年を過ごした道ではないか-別に書く-。

峠を4つ越えた、厚東から嘉川への山路はよかつた、僧都の響、国界石の色、山の池、松並木などは忘れられない。
雨がふつても風がふいても、けふは好日だつた。
端午、さうだ、端午のおもひでが私を一層感傷的にした。-略-

話しても話しても話しつきない、千鳥がなく、千鳥だよ、千鳥だね、といつてはまた話しつづける。
長州特有のちしやもみ-苣膾-はおいしかつた、生れた土地そのものに触れたやうな気がした、ありがたい、清子さんにあつく御礼申上げる。

※表題句の外、11句を記す

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Photo/西国街道-旧山陽道-の嘉川~厚東間の山路にある熊野神社

12122
Photo/その街道筋に「どんだけ道」と呼ばれる山路が今に残る


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