2011年1月31日月曜日

水音、なやましい女がをります

Dc09122625

―四方のたより―

<日暦詩句>-14
せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披いてくれるでせうか。
  その時は白粉をつけてゐてはいや、
  その時は白粉をつけてゐてはいや。

ただ静かにその胸を披いて、
私の眼に副射してゐて下さい。
  何にも考へてくれてはいや、
  たとへ私のために考へてくれるのでもいや。
   ―中原中也「盲目の秋」より-昭和5年―

―今月の購入本―
・亀井孝/他「日本語の歴史3―言語芸術の花ひらく」平凡社ライブラリー
・亀井孝/他「日本語の歴史4―移りゆく古代語」平凡社ライブラリー
・柳田聖山/梅原猛「無の探求<中国禅>―仏教の思想7」角川文庫
・塚本善隆/梅原猛「不安と欣求<中国浄土>―仏教の思想8」角川文庫
・紀野一義/梅原猛「永遠のいのち<日蓮>―仏教の思想12」角川文庫
・安西冬衛/他「言語空間の探検 全集現代文学の発見-13」新装版、学芸書林
・茨木のり子「倚りかからず」ちくま文庫
・後藤正治「清冽―詩人茨木のり子の肖像」中央公論新社

―12月の購入本―
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-上-資本主義と分裂症」河出文庫
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-中-資本主義と分裂症」河出文庫
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-下-資本主義と分裂症」河出文庫
・梶山雄一/上山春平「空の論理<中観>―仏教の思想3」角川文庫
・鎌田茂雄/上山春平「無限の世界<華厳>―仏教の思想6」角川文庫
・白川静「孔子伝」中公文庫
・小島寛之「世界を読み解く数学入門」角川文庫
・小島寛之「無限を読み解く数学入門」角川文庫
・草刈民代「BALLERINE」幻冬舎
・草刈民代「草刈メソツド」DVD&Book-マガジンハウス

―図書館からの借本―
・吉田伸之「成熟する江戸―日本の歴史17」

―山頭火の一句― 行乞記再び -146
6月3日、同前

雨、まるで梅雨のやうだ、歩いたり、考へたり、照会したり、交渉したり‥、ただ雨露を凌ぐだけの庵を結ぶのもなかなかである。
早朝、雷雨に起きて焼香し読経する。
温泉饅頭を坊ちやんに、心経講話をパパに送つてあげる-伊東君にあてて-。

夕方、一風呂浴びて一本傾けて、そしてぶらぶら歩く、ここにも温泉情調はある、カフヱーと自称するもの二軒、百貨店と自称するもの一軒、食堂二三軒、そこかしこに三味線の音がする、‥いやまて、ビリヤード二軒、射的場も一軒ある。‥

妙青寺拝登、長老さんにお目にかかつて土地の事、草庵の事を相談する-義庵老慈師の恩寵を感じる-、K館主人にも頼む、すぐ俳句の話になる、彼氏も一風かわつた男だ、彼は何だか虫の好かない男だ、とにかく成行に任せる、さうする外ない私の現在である。

山はうつくしい、茶臼山から鬼ケ城山へかけての新緑はとてもうつくしい、希くはそれをまともに眺められるところに庵居したいものだ。

-略- 今夜もまた睡れさうにないから、寝酒を二三杯ひつかけたが、にがい酒だつた、今夜の私としては。――
 アルコールよりもカルチモン
   ちよつと一服盛りましよか

※表題句の外、3句を記す

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Photo/妙青寺山門

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Photo/妙青寺境内にある雪舟の庭


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2011年1月29日土曜日

旅のつかれの夕月がほつかり

Dc09092685

―四方のたより―

一昨日の午後、「SOULFUL DAYS」の一次発送を近くの郵便局に持ち込んだ。
昨日から、受領したとのメールやハガキなどいくつか寄せられている。
突然不躾にも重いものを送られてきた知友あるいは未知の人-生前のRYOUKOの友人など-、その何人かのひとたちが、いま現に手に取りつつ読んでいるかも知れないのだ、と思うとじっとしても居られず、先程まで数時間かけて、自身またまた再読してみた。
それもほぼ終えかけるころ、電話が鳴った。古い神沢の弟子、昔の仲間だった。

<日暦詩句>-13
赤い林檎の頬をして
眠っている 奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
   ―吉野弘「奈々子に」より-昭和34年―


―山頭火の一句― 行乞記再び -145
6月2日、同前。

雨、そして関門地方通有の風がまた吹きだした、終日、散歩-土地を探して-と思案-草庵について-とで暮らした。
午後、小串へ出かけて、必要欠くべからざるものを少々ばかり買ふ。
山ほとゝぎす、野の花さまざま。

老慈師から、伊東君から、その他から、ありがたいたよりがあつた。隣室の奥さん-彼女はお気の毒にもだいぶヒステリツクである-からご馳走していただいた。
自己を忘ず―そこまで徹しなければならない。

ここはうれしい、しづかにしてさびしくない。
だんだん酒から解放される、といふよりもアルコールを超越しつつある、至祷至祝。
緑平老から貰つた薬を、いつのまにやら、みんな飲んでしまつた、私としては薬を飲みすぎる、身心がおとろへたからだらうが、とにかく薬を多く飲むほど酒を少く飲むやうになつたわい。
昨夜はよく寝られたのに、今夜はどうしても睡れない、暁近くまで読書した。

※表題句の外、3句を記す

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Photo/下関市小串の駅舎

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Photo/同じく小串の海


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2011年1月25日火曜日

ほうたるこいほうたるこいふるさとにきた

Santouka081130067

―四方のたより―

「SOULFUL DAYS」の印刷製本がやっとUP。
すぐさま引取りに走り、夕刻から半日、読み返していた。
昔からよく知った印刷屋のこととて、ずいぶんと安くしてくれている。
いや、ほんとうのところ、
印刷に出す段まですっかり失念していたのだが、
RYOUKOが二十歳頃だったか、おそらく半年くらいの期間だったろうが、
この会社にアルバイトとして勤めていた、という縁もあったのだ。
社長が高校の一期下という親しさもあって、私から頼んでの就職だった。
Yという顔馴染みの古い社員が、RYOUKOのことをよく覚えてくれていた。
おそらくそんな事情もあって、格安に、と便宜を計ってくれたのだろう。

<日暦詩句>-12
どこから世界を覗こうと
見るとはかすかに愛することであり
病患とは美しい肉体のより肉体的な劇であり
絶望とは生活のしっぽであってあたまではない
きみの絶望が希望と手をつないで戻ってくることを
きみの記憶と地球の円周を決定的にえらぶことを
夜の眠りのまえにきみはまだ知らない
   ―清岡卓行「氷った焔」より-昭和34年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -144
6月1日、川棚、中村屋
曇、だんだん晴れて一きれの雲もない青空となつた、照りすぎる、あんまり明るいとさへ感じた、7時出立、黒井行乞、3里歩いて川棚温泉へ戻り着いたのは2時頃だつたらうか、木下旅館へ行つたら、息子さんの婚礼で混雑してゐるので、此宿に泊る、屋号は中村屋-先日、行乞の時に覚えた-安宿であることに間違はないが、私には良すぎるとさへ思ふ。

すべてが夏だ、山の青葉の吐息を見よ、巡査さんも白服になつた、昨日は不如帰を聴き今日は早松茸を見た、百合の花が強い香を放ちながら売られてゐる。
笠の蜘蛛! ああお前も旅をつづけてゐるのか!
新しい日、新しい心、新しい生活、――更始一新して堅固な行持、清浄な信念を欣求する。
樹明君からの通信は私をして涙ぐましめた、何といふ温情だらう、合掌。
此宿はよい、ていねいでしんせつだ、温泉宿は、殊に安宿はかういふ風でなければならない、ありがたいありがたい。

※表題句のみ記す

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Photo/昨年10月、全国山頭火フオーラムが川棚温泉で開催されている

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Photo/その主会場となったモダンな川棚の杜こと川棚温泉交流センターは建築家隈研吾の設計


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2011年1月23日日曜日

ふたゝび渡る関門は雨

Dc09122636

―四方のたより―

<日暦詩句>-11
ひげが生える
ひげが生える男のあごに男の唇のまわりにひげが生え
る夜明けと共にひげが生える見知らぬ植物の芽のよう
にひげが生える女の柔い頬のためにひげが生えるサル
バドルダリと共にひげが生えるいつしようけんめいひ
げが生える耐用に向つてひげが生える男たち
   ―谷川俊太郎「今日のアドリブ」より-昭和37年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -143
5月31日、曇が雨となり風となつた、小倉まで3里、下関から風雨の4里を吉見まで歩いた、関門通有のシケで、全身びしよぬれになつて、やつと宿についた、石風呂があるので石風呂屋といふ、子供が多いので騒がしいけれど、おかみさんもおばあさんもしんせつなので居心地がよい。

昨夜の宿は予想したほどよくなかった-水だけは、筧から流れてくる水だけはよかつた-、しかし、期待したやうに山ほととぎすを聴くことが出来たのはうれしかつた。
石風呂は防長特有のものではあるまいか、その野人趣味を興ふかく思ふ。
ノミ、シラミ、アメ、カゼに責められて、なかなか寝つかれなかつた、落ちついて澄んでゆく自分を見詰めつづけた。
長かつた夜が白みかかつてきた、あかつきの声が心の中から響く、生活一新の風が吹きだした。
とにもかくにも、昨日までの自分を捨ててしまへ、ただ放下着!

※表題句の外、改作・再録併せて15句を記す

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Photo/下関市吉見の海岸に浮かぶ岩島-加茂島-

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Photo/龍王山の麓に建つ龍王神社の楼門


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2011年1月21日金曜日

山の家のラヂオこんがらがつたまゝ

Dc09092699

―四方のたより―

<日暦詩句>-10
ベルが鳴るいつでもベルが
星のない熱い肉のひだに

柔らかな瞬きから生まれた一人の男が
遠くから咽喉がつらぬきにきた一挺のかんざしに
つらぬかれたまま続けている会話の間中
ベルが鳴るいつでもベルが
   ―天澤退二郎「星生れの男」より-昭和41年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -142
5月30日、晴、行程5里、高津尾といふ山村、祝出屋

早く起きて別れる、そして川棚へ急ぐ、疲れて途中で泊る、この宿はほんたうにしづかだ、山の宿の空気を満喫する。
例の後援会の成績はあまり良くないけれど、それでも草庵だけは結べさうなので、いよいよ川棚温泉に落ちつくことになつた、緑平老の諒解を得たから、一日も早く土地を借りてバラツクを建てなければならない、フレイ、フレイ、サントウカ、バンザアイ!

近来とかく身心不調、酒も苦くなつた、―覚醒せずにはゐられない今が来たのである。
しつかり生きなければならない、嘘の多い、悔の断えない生き方にはもう堪へられなくなつた。
酒をつつしまなければならない、酒を飲むことから酒を味ふ方へ向はなければならない、ほんたうにうまい酒ありがたい酒をいただかなければならないのである。

伊東君に手紙を出して、私の衷情を吐露しつつ、お互に真実をつかまうと誓約した。
少し飲んでよく寝た。

※表題句の外、再録1句を記す

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Photo/高津尾は、現在の小倉南IC付近一帯

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Photo/その里に古くからある西大野八幡神社の参道

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山の家のラヂオこんがらがつたまゝ

Dc09092699

―四方のたより―

<日暦詩句>-10
ベルが鳴るいつでもベルが
星のない熱い肉のひだに

柔らかな瞬きから生まれた一人の男が
遠くから咽喉がつらぬきにきた一挺のかんざしに
つらぬかれたまま続けている会話の間中
ベルが鳴るいつでもベルが
   ―天澤退二郎「星生れの男」より-昭和41年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -142
5月30日、晴、行程5里、高津尾といふ山村、祝出屋

早く起きて別れる、そして川棚へ急ぐ、疲れて途中で泊る、この宿はほんたうにしづかだ、山の宿の空気を満喫する。
例の後援会の成績はあまり良くないけれど、それでも草庵だけは結べさうなので、いよいよ川棚温泉に落ちつくことになつた、緑平老の諒解を得たから、一日も早く土地を借りてバラツクを建てなければならない、フレイ、フレイ、サントウカ、バンザアイ!

近来とかく身心不調、酒も苦くなつた、―覚醒せずにはゐられない今が来たのである。
しつかり生きなければならない、嘘の多い、悔の断えない生き方にはもう堪へられなくなつた。
酒をつつしまなければならない、酒を飲むことから酒を味ふ方へ向はなければならない、ほんたうにうまい酒ありがたい酒をいただかなければならないのである。

伊東君に手紙を出して、私の衷情を吐露しつつ、お互に真実をつかまうと誓約した。
少し飲んでよく寝た。

※表題句の外、再録1句を記す

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Photo/高津尾は、現在の小倉南IC付近一帯

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Photo/その里に古くからある西大野八幡神社の参道

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2011年1月20日木曜日

ボタ山へ月見草咲きつゞき

Santouka081130066

―世間虚仮― やっと捜査の手

「人体の不思議展」にやっと捜査の手が伸びた。
もう10年近くにもわたって全国各地で興行的展示を開催し、リアルな人体標本で興味本位な耳目を集め、延べ600万人以上もの動員をしてきたという「人体の不思議展」については、私も嘗て-05年-に大いに問題ありと指摘しているが、このほどやっと厚労相は「遺体と認識している」との見解を示し、現在開催中の京都で、府警が捜査へ乗り出している、というニュースが駆けめぐっている。

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人権や倫理上において重大な問題を孕んでいるのは当然のことだが、法律違反即ち「死体解剖保存法」に抵触したものか否か、というのが捜査のあるいは司法の争点になってくるもよう。
これに先んじてフランスでは、09年4月、バリで開催されていた人体展を中止させる司法判断が出されていたのだが、ようやくこの国においてもそうなる公算が高くなったわけだ。

―四方のたより―

<日暦詩句>-9
いやだと ぼくは叫べば よかった
なぜだと ぼくは問えば よかった
それだのに 灰色の獣のように走っていた
次々とうしろで堆積する出口の数におびえて

いやだと叫べばよかった
いやだと問えばよかった
それだのにだまっていた それだのに走っていた
   ―入澤康夫「いやだとぼくは」より-昭和30年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -142
5月29日、晴、電車と汽車で緑平居へ、葉ざくらの宿。

朝から四有三居を襲うて饗応を強要した。
緑平老はあまりに温かい、そつけないだけそれだけしんせつだ、友の中の友である。
夕方、連れ立つて散歩する、ボタ山のここそこから煙が出てゐる、湯が流れてくる、まるで火山の感じである、荒涼落漠の気にうたれる。

※表題句の外、1句を記す

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Photo/山頭火句碑「ふりかえるボタ山ボタン雪ふりしきる」―糸田町の糸田小学校前

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Photo/隣町香春町の金辺川沿には「山頭火遊歩道」が整備され、10もの句碑が建つ


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2011年1月19日水曜日

星がまたたく草に寝る

Dc09122667

―四方のたより―

<日暦詩句>-8
檸檬絞り終えんとしつつ、轟きてちかき戦前・遙けき戦後

<欧州の怪>ポケツトにふくれつつ真逆様に吊らるるズボン

甲虫の叛乱、つねに少年は支配者にして傍観者
   ―岡井隆「少年行」より-昭和36年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -141
5月28日、晴、船と電車、酒と魚、八幡市、星城子居。

星城子君の歓待は恐縮するほどだつた、先日来の心身不調で、ご馳走が食べられないで困つた、好きな酒さへ飲めなかつた、この罰あたりめ! と自分で自分を憫れんだ。
夜、いつしよに仙波さんを訪ねる、ここでも懇ろにもてなされた、お布施までいただいた。
葉ざくら、葉ざくら、友のなさけが身にしみる。

工藤君からハガキをうけとつたのはうれしかつた、伊東君からも、国森君からも。
私は、私のやうなものが、こんなにしてもらつていいのだらうか、と考へずにはゐられない。

※表題句の外、3句を記す

<星城子について> 本名は飯尾由多加。八幡署に勤務していた警察官で剣道の達人。晩年の尾崎放哉とも交友が深く、「放哉居士消息」は、放哉が最晩年の1年間に星城子宛に書き送った138通にも及ぶ書簡集。

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Photo/山頭火句碑「水を前に墓一つ」、所在は北九州市八幡東区河内平原

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Photo/々「訪ねて逢へて赤ん坊生まれてた」、同じく八幡東区大蔵の或る酒屋の軒先に


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2011年1月18日火曜日

初夏の坊主頭で歩く

Dc090926165

―四方のたより―

<日暦詩句>-7
なんという駅を出発して来たのか
もう誰もおぼえていない
ただ いつも右側は真昼で
左側は真夜中なふしぎな国を
汽車は走りつづけている
   ―石原吉郎「葬式列車」より-昭和37年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -140
5月27日、晴、行程7里、安岡町行乞、下関、岩国屋

ぢつとしてはゐられないので出発する、宿料が足らないので袈裟を預けて置く、身心鈍重、やうやく夕暮の下関に着いた。

久しぶりに地橙孫君を訪ねて歓談する、君はいつも温かい人だ、逢ふたびに人格が磨かれつつあることを感じる。
夜更けてから馴染の宿に落ちつく、今夜は地橙孫君の供養によつて飲みすぎた、安価な自分が嫌になる。‥

※この日句作なし、表題句は24日付所収の句

<地橙孫について>
名は兼崎理蔵、山口市出身、1890-M23-年生れだから山頭火より8歳年少。旧制五高-熊本-を経て、京大法学部卒。1924-T13年-下関市にて弁護士開業。俳句は中学時代から始め、碧梧桐門下として過ごす。また六朝書体の最後の書家であり、山頭火の墓表も書いた。

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Photo/下関市豊浦町川棚クスの森の山頭火句碑

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Photo/同じく、妙青寺境内の山頭火句碑


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2011年1月17日月曜日

大楠の枝から枝へ青あらし

Santouka081130063

―四方のたより―

<日暦詩句>-6
ぼくの漂流は
どこまで漂流していくのであろう
退屈な楽器や 家財道具をのせて
いまにも沈みそうではないか
畢竟 難破だけが確実な旅程の一つであろう
   ―村野四郎「春の漂流」より-昭和34年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -139
5月25日。26日、雨、風、晴、発熱休養、宿は同前

とても動けないので、しようことなしに休養する、年はとりたくないものだ、としみじみ思ふ。
終日終夜、寝そべつて、並べてある修養全集を片端から読みつづける、それはあまりに講談社的だけれど。――
病んで三日間動けなかつたといふことが、私をして此地に安住の決心を固めさせた、世の中の事は、人生の事は何がどうなるか解るものぢやない、これもいはゆる因縁時節か。

嬉野と川棚を比べて、前者は温泉に於て優り、後者は地形に於て申分がない、嬉野は視野が広すぎる、川棚は山裾に丘陵をめぐらして、私の最も好きな風景である。
とにかく、私は死場所をここにこしらへよう。

※この日、句作記載なし、表題句は6月14日付記載の句

この後、山頭火は、川棚の地に庵を結ぼうと、先ずは金策のため田川市糸田の緑平を訪ねては舞い戻り、8月末頃までのほぼ100日をこの地に滞在している。

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Photo/下関市豊浦町川棚温泉界隈の全景、鬼ヶ城連山からの眺望

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Photo/山頭火が表題句-大楠の枝から枝へ青あらし-を呈した大楠

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Photo/幹周9.5m、樹齢1000年といわれ、一本の樹なのに森のようにも見えることから「クスの森」と呼称されている。


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2011年1月15日土曜日

ふるさとはみかんのはなのにほふとき

Dc09122624

―世間虚仮― 大阪7.7%、全国81.6%

この圧倒的な数値の差はなにか、といえば中学校における完全給食実施率。
滋賀46.0%、京都61.7%、奈良69.2%、和歌山55.6%、兵庫50.7%と、総体に近畿府県での普及は低いが、それにしても大阪の低さは他を圧倒している。因みに神奈川が16.1%で、大阪と神奈川がその低率において双璧だ。
統計は09年5月1日現在の状況だというが、これはいったいどういう背景や行政事情あってのことか、理解に苦しむ。

その昔、私が小六の時だったから、半世紀以上にもなるが、小学校における完全給食実施三周年とかの記念イベントが中之島公会堂で開かれ、学校から児童代表で出席させられた記憶がある。
舞台にあがって、各学校からの児童代表たちがシンポジウムよろしく意見交換をするといった躰の場面があったが、たしかこれには、ご丁寧にも事前にリハーサルのための場が設定されていたりして、ヤラセもいいところだったが‥。
それはともかく、小学校における完全給食実施に関して大阪は、おそらく当時としては、全国に先駆けその普及を誇っていたのだろう。
それが半世紀を経た今日、中学校の完全給食実施率において逆転現象どころか、きわめて特異な現実にあるというのは驚きを超えてあまりあるというもの。

―四方のたより―

<日暦詩句>-5
わたしの屍体に手を触れるな
おまえたちの手は
「死」に触れることができない
わたしの屍体は
群衆のなかにまじえて
雨にうたせよ
   ―田村隆一「立棺」より-昭和31年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -138
5月24日、晴、行程わづかに1里、川棚温泉

すつかり夏になつた、睡眠不足でも身心は十分だ、小串町行乞、泊つて食べて、そしてちよつぽり飲むだけはいただいた。
川棚温泉―土地はよろしいが温泉はよろしくない-嬉野に比較して-、人間もよろしくないらしい、湯銭の3銭は正当だけれど、剃髪料の35銭はダンゼン高い。

妙青寺-曹洞宗-拝登、荒廃々々、三恵寺-真言宗-拝登、子供が三人遊んでいた、房主さんの声も聞える、山寺としてはいいところだが。―
歩いて、日本は松の国であると思ふ。
新緑郷―鉄道省の宣伝ビラの文句だがいい言葉だ―、蜜柑の里だ、あの甘酸つぱい匂ひは少年の夢そのものだ。
松原の、松のないところは月草がいちめんに咲いてゐた、月草は何と日本的のやさしさだらう。

※表題句の外、4句を記す

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Photo/寿永2-1183-年の開湯といわれる下関の奥座敷、川棚温泉

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Photo/曹洞宗龍福山妙青寺の山門

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Photo/三恵寺境内の石仏たち


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2011年1月14日金曜日

波音のお念仏がきこえる

Dc09092693

―四方のたより―

<日暦詩句>-4
野良犬・野良猫・古下駄どもの
入れかはり立ちかはる
夜の底
まひるの空から舞ひ降りて
襤褸は寝てゐる
夜の底
見れば見るほどひろがるやう ひらたくなつて地球を抱いてゐる
   ―山之口漠「襤褸は寝てゐる」より-昭和15年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -137
5月23日、晴、行程6里、小串町、むし湯

久しぶりの快晴、身心も軽快、どしどし歩く、久玉、二見、湯玉といふところを行乞、小串まで来て宿を探しあてたが、明日は市が立つので満員で断られる、教へられて、この蒸湯へ来た、事情を話して、やつと泊めて貰ふ、泊つて見れば却つて面白い、生れて初めて蒸湯といふものへはいる、とても我慢が出来なかつた。-略- 

旅寝の目覚の窓をあけたら、青葉若葉に朝月があつた。
このあたりの海岸は日本的風景。

蚤と蚊と煩悩に責められて、ちつとも睡れなかつた、千鳥が啼くのを聞いたが句にはならなかつた。‥
先日からいつも同宿するお遍路さん-同行といふべきだらうか-、逢ふたびに、口をひらけば、いくら貰つた、どこでご馳走になつた、何を食べた、いくら残つた、等々ばかりだ、あゝあゝお修行はしたくないものだ、いつとなくみんな乞食根性になってしいまふ!

※表題句の外、2句を記す

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Photo/長門二見あたりの海辺

01132
Photo/湯玉近くにある福徳稲荷の壮観


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