2012年2月25日土曜日

ふくらうがふくらうに月は冴えかへる

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―表象の森― 末永旭濤は「小栗栖」

明26日-日曜-は、奥村旭翠一門の筑前琵琶演奏会。
毎年春先の頃に開催され今年で22回目とか。
はて、旭濤こと連合い殿の出演は10回ほどを数えるのだろうか、
いつのまにかそれほどに歳月を重ねてきたのだ。

Biwanokai

―山頭火の一句― 其中日記-昭和9年-265

2月14日
今日は旧のお正月です、お寺の鐘が鳴ります、餅を貰ひに行きましよか、さうらうとして鉢の子ささげて。
どうも憂鬱だ、無理に一杯ひつかけたら、より憂鬱になつた、年はとりたくないものだとつくづく思ふ。
畑仕事を少々やつてみたが、ますます憂鬱になる。読書すればいよいよ憂鬱だ。
春風よ、吹きだしてくれ、私は鉢の子一つに身心を託して出かけやう、へうへうとして歩かなければ、ほんたうの山頭火ではないのだ! -略-
思ひがけなく、東京の修君からたよりがあつた、彼も私とおなじく落伍者、劣敗者の一人だ、そして細君にこづかれてゐる良人だ、幸にして彼にはまだ多少の資産が残つてをり、孝行な息子があり、世才がないこともないので、東京で親子水入らずの、そして時々はうるさいこともある生活をつづけてゐるらしい、修君よ、山の神にさわるなかれ、さわらぬ神にたたりなしといふではありませんか!
夕、樹明君に招かれて宿直室へ出かける、うまい酒うまい飯だつた、そのまま泊る、あたたかい寝床だつた。

※表題句の外、4句を記す


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2012年2月14日火曜日

なむからたんのう御仏の餅をいただく

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―日々余話- バレンタインだったか‥

朝からピンポンとドアホンが鳴る。
メール便はバレンタインのチョコだった。
送り主は16歳の少女ありさ―
こんな爺さんに、こんなに盛り沢山のチョコは、いくらなんでも不似合だろうに…。
でも、その一杯の気持は、やっぱり嬉しいもんだ。

―表象の森― 石岡瑛子「DESIGN-私デザイン」

'83年、ニューヨークの出版社から作品集「EIKO BY EIKO」-日本語版「石岡瑛子風姿花伝」求暮堂-が出され、その前後から彼女の活動拠点はニューヨークに移っていたわけだが、本書全12章は、以後20年間にわたって、彼女が関わったアートデザインの選りすぐりのプロジェクト、映画「MISHIMA」にはじまり、ブロードウェイ劇の「M.バタフライ」、オペラ「ニーベルングの指輪」、シルク・ド・ソレイユの「VAREKAI」etc. そして最後にソルトレイク冬期五輪におけるデサント社のデザインプロジェクト、これら12の仕事を、さまざまなビッグアーティストたちとの出会いから制作過程のエピソードなどを交えつつ総覧したものだ。

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Photo/映画「MISHIMA」

文章は平易でいたって読み易いが、自身あとがきで綴るように、「私にとって最上の、そして唯一の、表現への道案内」とする、彼女独特の迸るほどの<Emotion-感情・感動>に全編貫かれているから、読み手にとってけっして気楽な読み物ではない。
とりわけ印象深かったのは、第4章「映像の肉体と意志-レニ・リーフェンシュタール」展と、オペラ「ニーベルングの指輪」四部作の第8章だが、前者はレニという存在自体の栄光と悲惨の苛酷な人生がオーパラップされるからであろうし、後者はワーグナーの大作を野心的な新解釈で取り組むというフィールド自体に潜む困難さにあったかと思われる。

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Photo/オペラ「ニールンベルグの指輪」

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Photo/シルク・ド・ソレイユ「VAREKAI」

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Photo/「映像の肉体と意志-レニ・リーフェンシュタール」展

―山頭火の一句― 其中日記-昭和9年-264

2月14日
晴れてあたたか、曇つてあたたか、ぢつとしてゐても、出て歩いてもあたたか。
樹明君を訪問して、切手と煙草と酒代を貰つた。
倦怠、無力、不感。
夜を徹して句作推敲-この道の外に道なし、この道を精進せずにはゐられない-。

※表題句の外、5句を記す


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2012年2月1日水曜日

はれてひつそりとしてみのむし

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-表象の森- 永井隆と如己堂

先夜、たった二畳一間の小さな家屋の写真に誘われて、長崎原爆被災の医師、永井隆の著書「長崎の鐘」と「この子を残して」を青空文庫で読んだ。

爆心地から700mの長崎医大で被爆した彼は、白血病を負いつつ戦後の6年を生きた。
命日は’51-S26-年5月1日、享年43歳。その死に至るほぼ3年の月日を過ごしたのが写真の家屋、如己堂である。
その名の由来は、己を愛するが如く他者を愛せよ、と自身に課すべく付けられたという。

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8月9日の長崎への原爆投下、その直後から医師である彼は、重傷を負いつつも、猖獗きわまる被災者たちの救護活動に明け暮れた。
明くる10日になって、やっと帰宅した彼は、廃墟となった家の台所跡に、骨だけに変わり果てた妻の遺骸を見いだし、その骨片を拾い集め、埋葬する。
偶々、祖母宅へ行っていた二人の子ども、兄・誠一と妹・茅乃は原爆を免れ無事だった。

「長崎の鐘」-原爆投下の瞬間からはじまり、自ら被爆しながら直後の混乱のなかの救護活動、医師ならではの被爆者たちの克明な症状変化の実態、そして無条件降伏の詔勅、そして‥。
これは、高貴な精神の、慟哭の記録である。

「この子を残して」-敬虔なカトリシズムと、放射線物理療法の医師という二面を併せもつこの高貴な魂は、自身の死期が迫りくるなかで、この世に残しゆく幼い兄妹の身をさまざまに案じつつも、揺るぎのない信仰に支えられ、あくまで沈着に父からの二人への遺言の書として、日々の思いを綴っている。
それは、精神の桎梏が激しさを増すほどに、かえって高みへと昇華していく運動を示し、なればこそ、幼な児たちへと綴られた言葉は、狂おしいほどの愛となって、読む者に伝わりくるのだ。

-1月の購入本-
帚木蓬生「蠅の帝国 –軍医たちの黙示録」新潮社
米原万里「オリガ・モリソヴナの反語法」集英社文庫
宮崎市定「中国史の名君と宰相」中公文庫
田尻祐一郎「江戸の思想史 –人物・方法・連環」中公新書
南直哉「語る禅僧」中公新書
佐藤勝彦「量子論を楽しむ本」PHP新書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「十二夜」ちくま文庫 中古書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「オセロー」ちくま文庫 中古書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「お気に召すまま」ちくま文庫 中古書

-図書館からの借本-
星野英紀・浅川泰宏「四国遍路 –さまざまな祈りの世界」吉川弘文館
原口剛.他「釜ケ﨑のススメ」洛北出版
八木久美子「グローバル化とイスラム」世界思想社

-12月の購入本-
サイモン.シン「フエルマーの最終定理」新潮社 -中古書-
サイモン.シン「宇宙創生 -上-」新潮文庫
サイモン.シン「宇宙創生 –下-」新潮文庫
岩田義一「偉大な数学者たち」ちくま学芸文庫
矢部孝・山路達也「マグネシウム文明論」PHP新書
G.ガルシア=マルケス「予告された殺人の記録」新潮文庫
鷲田清一「ぐずぐずの理由」角川書店
海渡雄一「原発訴訟」岩波新書
ジヤツキー.エバンコ「Dream With Me」CD

-図書館からの借本-
河本真理「切断の時代 -20世紀におけるコラージユの美学と歴史」ブリュッケ

―山頭火の一句― 其中日記-昭和9年-265

2月13日
晴れてあたたか、曇つてあたたか、ぢつとしてゐても、出て歩いてもあたたか。
樹明君を訪問して、切手と煙草と酒代を貰つた。
倦怠、無力、不感。
夜を徹して句作推敲-この道の外に道なし、この道を精進せずにはゐられない-。

※表題句の外、5句を記す


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