2011年7月31日日曜日

何と涼しい南無大師遍照金剛

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―四方のたより― 亀岡、楽々荘にて

7日間の北の旅からやっと帰宅し、ほっと息つくまもなく出かけたのは5時過ぎ。車で向かったのは亀岡の楽々荘。
阪神高速池田線から都市高池田木部線を走って木部第一INを下りると国道423号線に出る。箕面の西部を通り豊能町を抜けて豊岡へと抜けるこの峠道は、何度か走ったことはあるが、休日の所為もあってか対向車にほとんど会わない。
亀岡市役所のごく近く、市の中心街に占める広大で閑静な空間、明治から大正、京都にあって関西の政財界に君臨した田中源太郎の旧邸、国の登録有形文化財でもある楽々荘に着いたのは、約束の7時にまだ十数分余裕があった。

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約束とは、秋山巌画伯のお嬢さんこと町田珠美さん提唱の、此処=楽々荘でのビアパーティだ。
山頭火の句やふくろうを題材にした版画で知られる秋山巌氏は1921年生まれというから今年90歳。
そのお嬢さんが仙台で「秋山巌の小さな美術館—ギャラリーMami」を運営しており、ネツトを通してお近づきになったのは昨年の10月だった。

3.11の被災以後、夫と二人暮らしの彼女たちの日々もずいぶんと大変なものだったらしい。その辛苦と奮闘の4ヶ月余にひとときの慰安を求め、さらには三田で夫君の大腿部の義足新調も兼ねての関西への小旅行、その一夕に設けた知友たちとのパーティといった趣向で、集った人数は12名ほどだが、みな一家言ありの猛者揃い-失礼!-で侃々諤々賑やかに酒も食も進む。初お目見えの此方は車だからウーロン茶で、文字どおり茶を濁すしかないのだが、それでも結構愉しく時間を過ごした三時間だった。もちろん初会のパーティなんぞにわざわざ遠出をしてまで顔を出すについては、ただ山頭火縁りばかりでなく、想う一事あってのことなのだが、その所期もさしあたりは果たせたかと思われる。

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午後10時を過ぎた帰りの峠道の運転は些か堪えたが、眠りたくなるほどのこともなく一時間余で無事帰参。やっとのんびりと冷や酒にありついて、あとはばったりと倒れ込むように眠り込んだ。


―山頭火の一句―
行乞記再び-昭和7年-203

7月31日、いよいよ出かけた、5時一浴して麦飯を二三杯詰めこんで勢よく歩きだしたのである、もう蝉が鳴いてゐる、法衣に飛びついた蝉も一匹や二匹ではなかつた。
暑かつた、労れた、行程8里、厚狹町小松屋といふ安宿に泊る、掃除が行き届いて、老婦も親切だが、キチヨウメンすぎて少々うるさい。
行乞相はよかつた、所得もわるくなかつた、埴生1時間、厚狹2時間、それだけの行乞で食べて飲んで寝て、ノンキに一日一夜生かさせていただいたのだから、ありがたいよりも、もつたいなかつた。
明日は是非小郡まで行かう、そして宮市へ、そこで金策しなければならない。‥‥歩くはうれしい、水はうまい、強烈な日光、濃緑の山々、人さまざまの姿。-略-

※表題句の外、4句を記す


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Photo/川棚温泉から埴生、厚狭への道程

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Photo/北の旅-2000㎞から―函館、トラビスチヌ修道院-’11.07.24


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2011年7月30日土曜日

日ざかり、われとわがあたまを剃り

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―四方のたより― 北の大地へ―第7日

小樽市内から札幌市内、新千歳空港へ
新千歳発12:15―関空着14:25


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帰宅16時頃予定


―山頭火の一句―
行乞記再び-昭和7年-202

7月30日、晴、晴、晴、一雨ほしいなあ!
緑平老から来信、それは老の堅実を示し、同時に私の焦燥を示すものだつた、人生不如意は知りすぎるほど知つてゐる私であるが、感情的な私はともすれば猪突する、省みて恥ぢ入る外なかつた-造庵について-。
今日は特種が一つあつた、私は生来初めて自分で自分の頭を剃つた、安全剃刀で案外うまくやれた、これも自浄行持の一つだらう。

※表題句の外、6句を記す

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Photo/青海島奇巌めぐり-’11.05.01


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2011年7月29日金曜日

あおむけば蜘蛛のいとなみ

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―四方のたより― 北の大地へ―第6日

層雲峡から旭川へ、そして小樽へ


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宿泊地―小樽市築港、グランドパーク小樽

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-201

7月29日、朝曇、日中は照りつけるだらう。
修証義読誦、芭蕉翁発句集鑑賞、その気品の高いことに於て、純な点に於て、一味相通ずるものがある、厳かにして親しみのある作品といふ感じである、約言すれば日本貴族的である。
みんなよく水瓜を食べる、殊に川棚水瓜だ、誰もが好いてゐる、しかし私の食指は動かない、それだけ私は不仕合せだ。
隣室の旅人-半僧半俗の-から焼酎と葡萄とをよばれる、久振にアルコールを飲んだので、頭痛と胃痛とで閉口した。
私はたしかにアルコールから解放された、ニコチンからも解放されつつある、酒を飲まなくなり、煙草も喫はなくなつたら、さて此次は何をやめるか!
山百合、山桔梗、撫子、刈萱、女郎花、萩、等等等、野は山はもう秋のよそほひをつけるに忙しい。

※表題句の外、1句を記す

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Photo/イラスト画、秋の七草


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2011年7月28日木曜日

炎天のポストへ無心状である

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―四方のたより― 北の大地へ―第5日

知床から網走、サロマ湖へを経て、層雲峡へ


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宿泊地―層雲峡、朝暘亭


―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-200

7月28日、晴、風がすがすがしい、そして何となく雨の近い感じがする、今日はきつとよいたよりがあるだらう。
よいたよりといへば、昨日うけとつたたよりはうれしいものであつた、緑平老からのたよりもうれしかつたが、幸雄さんからのそれは殊にうれしかつた、それは温情と好意にあふれてゐた。-略-
野百合と野撫子を活けた、百合はうつくしい、撫子は村娘野嬢のやうな風情でなくて-百合のやうに-深山少女といつた情趣である、好きな花だ、一目何でもないけれど、見てゐるとたまらなくよいところがある、西洋撫子はとてもとてもだ。-略-
貧乏はとうとう切手を貼らない手紙を出す非礼を敢てせしめた、それを郵便配達夫がわざわざ持つてきて見せた厚意には汗が流れずにはすまなかつた、それでなくても暑くてたまらないのに、―そしてまた、次のやうな嫌味たつぷりの句を作らないではゐられなかつた。
-略- 長い暑い一日がやうやく暮れて、おだやかな夕べがくる、茶漬さらさら掻きこんで出かける、どこへといふあてもない、何をしようといふのでもない、訪ねてゆく人もなければ訪ねてくる人もない現在の境涯だ、ただ歩くのである、歩く外ないから。―

※表題句の外、4句を記す

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Photo/浜撫子の花


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2011年7月27日水曜日

暑さ、泣く子供泣くだけ泣かせて

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―四方のたより― 北の大地へ―第4日

摩周湖から野付半島へ、羅臼を経て知床五湖へ


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宿泊地―知床半島岩尾別温泉、ホテル地の涯

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-199

7月27日、今日は土用の丑の日。
鰻どころか一句もない一日だつた!
だが、夕方になつて隣室から客人から蒲焼一片を頂戴した。
まことに夢ひときれの丑の日だつた!
だから駄句一つの一日でもあつた!

※表題句の外、句作なし

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Photo/川棚、大楠の森の若宮-’11.04.30


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2011年7月26日火曜日

水底の雲から釣りあげた

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―四方のたより― 北の大地へ―第3日

ガーデン街道から十勝、帯広を経て、釧路湿原、そして阿寒湖へ


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宿泊地―津別町奥屈斜路温泉、ランプの宿森つべつ

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-198

7月26日、相かはらず暑い、夕立がやつて来たさうでなかなかやつて来ない、草も木も人もあえいでゐる。
約束通り、ここの息子さんと溜池へ釣りに行く、鰻は釣れないで鮒が釣れた、何かと薄倖な鮒だつたらう、せいぜい3時間位だつたが、ずゐぶんくたぶれた。

※表題句の外、4句を記す

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Photo/川棚、妙青禅寺境内、雪舟の庭-’11.04.30


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2011年7月25日月曜日

押売が村から村へ雲の峰

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―四方のたより― 北の大地へ―第2日

洞爺湖から支笏湖を経て、美瑛、富良野へ


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宿泊地―富良野市下御料、ノースカントリー


―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-197

7月25日、何と朝飯のうまいこと! -現在の私には、何者でも何時でもうまいのだが-私はほんとうに幸福だ!
茗荷の子三把で4銭、佃煮にして置く、当分食卓がフクイクとしてにほふだらう、これもまた貧楽の一つ。―
怪我をするときは畳の上でもするといふ、まつたくさうだ、今朝、私は縁側でしたたかに向脛をうつた、痛い、痛い。
ここの息子さんと土用鰻釣に出かける約束をしたので、釣竿を盗伐すべく山林を歩いてゐると、仏罰覿面、踏抜をした、こんこんと血が流れる、真赤な血だ、美しい血だ、傷敗けをしない私は悠々として手頃の竹を一本切つた、いかにも釣れそうな竿だ、しかし私は盗みを好かない、随つて盗みの罰を受け易い、どうも盗みの興味が解らない。

※表題句のみ記す

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Photo/青海島奇巌めぐり-’11.05.01


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2011年7月24日日曜日

夾竹桃、そのおもひでの花びら燃えて

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―四方のたより― 北の大地へ―第1日

空路、北海道へ。関空発9:05―函館着10:45
函館市内めぐりの後、大沼を経て内浦湾を北上、洞爺湖へ


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宿泊地―洞爺湖温泉湖畔の壮瞥温泉ペンシヨンおおの

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-196

7月24日、今日も暑からう、すこし寝過ごした、昨夜の今朝で、何となく気分がすぐれない。
野の花を活けた、もう撫子が咲いてゐるが、あの花には原始日本的情趣があると思ふ。-略-
―百雑砕―
燃ゆる陽を浴びて夾竹桃のうつくしさ、夏の花として満点である。
色身を外にして法身なし、しかも法身は色身にあらず、法身とは何ぞや。
貧時には貧を貧殺せよ。
私は拾ふ、落ちた物を拾ふ、落した物を拾ふにあらず、捨てたる物を拾ふなり。
緑平老からの来信は私に安心と落ち着きとを与へてくれた。-略-
―一箇半箇―
捨猫がうろついてゐる、彼女は時々いらいらした声で鳴く、自分の運命を呪ふやうな、自分の不幸を人天に訴へるやうに鳴く、そし食べるものがないので、夜蝉を捕へる、その夜蝉がまた鳴く、断末魔の悲鳴をあげる。‥‥
近眼と老眼とがこんがらがつて読み書きに具合がわるくて困る、そのたびに、年はとりたくないなあと嘆息する。

※表題句の外、5句を記す

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Photo/燃えるような夾竹桃の花


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2011年7月23日土曜日

事がまとまらない夕蝉になかれ

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―四方のたより― 琵琶五人の会

今日もまた催しのご案内、毎年この時期、恒例の「琵琶五人の会」公演。
題して「百花繚乱、戦国武将」の絵巻とや。
関西で活躍する師範衆五人組なれば堪能できること請合いなれど、
これまた小生は参上叶いません、悪しからず、ご紹介のみでご容赦。

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―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-195

7月23日、土用らしい土用日和である、暑いことは暑いけれど、そこにわだかまりがないので気持がよい。-略-
夕食後、M老人を訪ねて、土地借入証書に捺印を頼んだら、案外にも断られた、何とかかかとは言訳はされたけれど、然諾を重んじない彼氏の立場には同情すると同時に軽蔑しないではゐられなかつた、それにしても旅人のあはれさ、独り者のみじめさを今更のやうに痛感したことである。
これで造庵がまた頓挫した、仕方がない、私は腰を据えた、やつてみせる、やれるだけやる、やらずにはおかない。‥‥
敬治さん、幸雄さんのたよりはほんとうにうれしかつたのに!
今日は暑かつた、華氏97度を数へた地方もあるといふ、しかし私はありがたいことには、樹木の多い部屋で寝転んでゐられるのだから。
幸雄さんの供養で、焼酎を一杯ひつかける、饅頭を食べる、端書を10枚差出すことが出来た。

※表題句の外、2句を記す

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Photo/川棚の三恵寺山門にて-’11.04.30


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2011年7月22日金曜日

虫のゆききのしみじみ生きてゐる

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―四方のたより― イベント二題

縁の深い昔の仲間から、明後日に催しがあると誘いがあつた、それもふたつ。
ひとつは蕎麦屋「凡愚」の真野夫妻からの案内で、蕎麦切り職人衆8人が集結した以下の如き催し。

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昔はこの夫婦、夫は写真で、妻は衣装デザイン、初期の頃から80年代初め頃まで、共にスタツフとして付合ってくれた。

もうひとつは、私が研究所を立ち上げたときのメンバーで加藤鈴子からで、朗読の会へのお招きで、会場は文楽劇場の小ホール。
ところがどっこい、折悪しく、此方はこの日から小旅行に出かけるべくすでに計画を立ててしまっている。何事もなければ両者共に顔を出さずばなるまいところだが、時すでに遅しでどうしようもない。
と、まあそんな次第だから、せめてこの場で広報よろしく、ご紹介だけしておく。

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―山頭火の一句―
行乞記再び-昭和7年-194

7月22日、朝曇、日中は暑いけれど朝晩は涼しい、蚊がゐなければ千両だ。
感情がなくなれば、人間ぢやない、同時に感情の奴隷とならないのが人間だらう。
さみしくいらだつからだへ蝿取紙がくつついた、句にもならない微苦笑だつた。

※表題句の外、4句を記す

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Photo/下関市豊浦町宇賀、福徳稲荷神社にて-’11.04.30


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2011年7月21日木曜日

伸ばしきつた手で足で朝風

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―表象の森― キリスト教と無神論

<無神論>の問題は、キリスト教的自由意志の問題とセットになっているのだ。
どの文化の<神>の周りにも不信心の輩は生まれたが、キリスト教の神だけが、無神論者を育み、無神論の枠組に守られて自らを存在させ続けたのだ。逆にいえば、権威主義的な統一主義こそが、異質な思想を生み、創造的な緊張を生んだ。神の恩寵と人間の自由意志というパラドクスが、歴史のダイナミクスをもたらしたのだ。
エジプトやバビロンの影響を濃く受けながら、「受肉」による一回性をスタートさせて永劫回帰的な古代呪術世界と決別したパレスティナ生まれのキリスト教は、ギリシャ哲学の弁証法の最良の部分と、ローマ帝国の秩序の最良の部分を糧として、ヨーロッパを形成し、近代世界を出現させた。近代的自我に拠って思考する私なるものは間違いなくその延長にある。この世界で考え続けていくためには、歴史の原動力となった形而上の世界を無神論という舞台裏から眺め直さなくてはならない。―竹下節子「無神論」P277より

―今月の購入本―
・G.ベイトソン「精神と自然」新思索社
副題に-生きた世界の認識論-、初訳版は82年だが01年の改訂版。
前著の「精神の生態学」と本書を読んでみるのが当面の私の課題。それからオートポイエーシス論に入る予定だが‥。

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・辻邦生「春の戴冠」新潮社
96年刊の全一冊新装版。ボッティチェルリを軸にフイレンツエの栄養と没落を描いた大長編3000枚。P956の中古書にて廉価の掘出し物。いずれ近いうちに読むべし。

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・小川環樹他「千字文」岩波文庫
四字一句で250句でなる中国古代の文字教科書だった千字文の注解書、P469。

・小出裕章「原発のウソ」扶桑社新書
既に本ブログで紹介済。

・古賀茂明「日本中枢の崩壊」講談社
経産省大臣官房付という閑職にほされた現役官僚という著者。もはや末期症状を呈する政と官の病根を詳述した話題の本だが、まさに実務家らしく具体性をもって語られるその内容は、いかにも同工異曲の重複が多く、ハードカバーでP381もの重装備にする必然は感じられない。この程度の内容ならば、もっとしっかりと削り込んで、新書版にて出版したほうが、より多くの読者に触れてよかったのではないかと思われるが、この重厚な単行本化には別次の背景があるのだろう。

・西森マリー「レッド・ステイツの真実」研究社
副題に-米国の知られざる実像に迫る-とあり、1998年以降、アメリカのテキサスに住み、福音主義者らと政治に関わり、選挙現場の取材等に力を入れているという著者が、アメリカの半分を占めるレッド・ステイツ、福音主義者を始めとする保守派キリスト教徒たちのメンタリティを理解し、現代アメリカのキリスト教を深掘りする。

・「芸術新潮―11/07 青木繁特集」
特集の青木繁、知らない部分に触れえたのはちょっぴり収穫。
「非常にうまい画が拵へてみたい、-略-、又同時に平淡な適当な、誰にも分るうまくない絵が作ってみたい、後者が我目的である」。また「うまい画」と「平凡な画」を、「エカキの画」と「ニンゲンの画」とも言換えてもみる青木繁。この両極端がやりたいといい、なおかつ、真に目指すところは「平凡な画」であり「ニンゲンの画」だというのは、表現者として非常に解る話だ。
愛人だった福田たね、落し胤の福田蘭堂、その子の石橋エータロー、そのまた子の石橋鉄也と、四代にわたる数奇な宿縁の物語も読ませる。

・「芸術新潮―11/05 狩野一信特集」
江戸末期の絵師、全100幅五百羅漢のめくるめく綺想グラフティ。4月末から7月初めまで江戸東京博物館で「五百羅漢-狩野一信」展が催され話題に。

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―図書館からの借本―
・竹下節子「無神論―二千年の混沌と相克を超えて」中央公論新社
10年5月初版。著者の専門は比較文化史だが、傍らバロツク音楽のアンサンブルグループを主宰するという。

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-193

7月21日、曇、しかし朝蝉が晴れて暑くなることを予告しつつある。
山へ空へ、樹へ草へお経をあげつつ歩かう。
黒井行乞、そのおかげで手紙を差出すことが出来た。
安岡町まで行くつもりだつたが、からだの工合がよくないのでひきかへした、暑さのためでもあらうが、年のせいでもあらうて。
物を粗末にすれば物に不自由する-因果応報だ-、これは事実だ、少くとも私の事実だ!

※表題句の外、5句を記す

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Photo/JR山陰本線の黒井村駅


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2011年7月20日水曜日

紫陽花もをはりの色の曇つてゐる

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―表象の森― 負の遺産//原発

◇放射能とはどういうものか
・放射能の怖さは、DNAを破壊し遺伝子異常を引き起こすこと。JCO臨界事故では、被曝者の細胞が再生されず、全身が焼けただれるようにして亡くなった。
・今回の事故で、すでに原爆80発分の放射性物質が飛び出している。いま問題なのは内部被曝。ベータ線やアルファ線は、進む距離は短いがエネルギーが大きい。体内の細胞に付着すると、そのごく近傍の細胞に継続的に影響を与える。

◇放射能汚染から身を守るには
・人体への影響はLNTモデル(=線量の増加に伴い危険性が増える)で説明される。原発推進派はこれを認めず、一定量以下の被曝なら影響ゼロとの立場を取る。だが、人体に影響のない被曝はない。最近では低線量被曝がむしろ危険度が高いとの研究も出ている。
・事故での被曝を防ぐには、まず事故の場所から遠ざかること。風向きと直角の方向に逃げる。雨を避ける装備やマスクなども必要。国の発表は過小評価なので、ネットなどで情報ルート開拓をする必要。
・文科省の「20ミリSvまで安全」は狂気。表土除去など被曝を少しでも減らす方策が必要だ。汚染されたゴミは原発周辺に送るしかない。また周辺の農地はすでに再生不能。気の毒だが、もう住民は元に戻れない。
・放射線は若い人ほど影響を受け、50歳以上ではガン死の可能性が劇的に下がる。汚染された食物は隠さず流通させた上で、大人が引き受けるべき。
・原発を容認した大人にも責任があるのだから、被害を福島だけに押し付けてはならない。周辺住民の重荷は社会全体が共有し、支える必要がある。

◇原発の“常識”は非常識
・原発の運転により、日本国内にある死の灰は広島型原爆の80万倍に及ぶ。国は原発の危険性を分かっていたので、原賠法で電力会社の賠償責任の上限を設定。電力会社に建設を促した。
・電力会社の利潤は、市場原理ではなく資産で決まる。原発は作れば作るほど資産になるから、電力会社は建設をやめない。一方で電力料金は高騰する。
・「原発は低コスト」は嘘。再処理や開発費用を加えると火力より高い。ウランの採掘や濃縮で多量のCO2も排出。さらに、発生した熱の3分の2は水に伝わり、海に捨てている。こんな原発のどこがクリーンなのか。

◇原子力は未来のエネルギーか?
・化石燃料枯渇への恐怖が原発推進を容認してきた。だが石油可採年数は増加。むしろウランの方が先に枯渇する。

◇「石油がダメだから原発」は誤り。
・資源不足を解決するべく始めた核燃料サイクル計画も失敗続き。もんじゅは1兆円を注ぎ込んで1kwも発電していない。実用化は無理だろう。
・プルトニウムを処理するために、MOX燃料対応の原発(大間原発)を建設中だ。原発の問題をクリアするためにまた原発。悪循環から抜け出せない。

◇地震列島・日本に原発を建ててはいけない
・地震多発地域に原発を54基も作ったのは日本だけだ。浜岡原発は、必ず起きる東海地震の想定のど真ん中。今回の停止を、津波対策のみならず全原発の安全対策検証の契機にするべき。
・六ヶ所村の核燃料再処理工場には大量の使用済み燃料が集まる。本格稼働すれば日常的に放射性物質を廃棄することに。コスト減でフィルタも取り付けられない。
・高速増殖炉もんじゅの冷却材はナトリウム。空気に触れると火災が発生する。水に触れても爆発するから、消防車も使えない。地震で施設が破損したらすべてが終わる。

◇原子力に未来はない
・原発は、先進国では縮小傾向にある産業。その上、日本は原発技術の後進国だ。原発は止めなければいけない。実は全原発を止めても、火力の稼働を7割(通常5割)にするだけで必要量は賄える。
・核のゴミは、六ヶ所村では300年監視が必要という。もう、原発で得たエネルギーより、処理のデメリットの方が大きいではないか。
・代替エネルギーの開発と普及を考えよう。日本はかつて太陽光発電では世界トップの技術を誇った。一方で、エネルギー大量消費を前提とした生活を考え直す必要がある。

  ―小出裕章「原発のウソ」より簡約

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-192

7月20日、曇、土用入だから、かんかん照ればよいのに。
朝の山へ、蜘蛛の囲を分けて登つて萩を採つて来て活けた、温湯に挿したが、うまく水揚げしてくれるとうれしい。
昨夜はとろりとしただけだった、こんなでは困る。-略-
私は今、庵居しようなどといふ安易な気分に堕した自分を省みて恥ぢてゐる、悔いてもゐる、しかも庵居する外ない自分を見直して嘆いてゐる、私はやむなく背水の陣を布いた、もう血戦-自分自身に対して-する外ない。
緑平老へ、そしてS子へ、S女へ手紙を書いた、書きたくない手紙だつた、こんな手紙を書かなければならない不徳を憤つた。
眠れない、眠つたと思へば悪夢だ。
アルコールが私に対して、だんだん魅力を失ひつつあることは、むしろ悲しい事実だらう。

※表題句の外、3句を記す。

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Photo/川棚の紫陽花


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2011年7月19日火曜日

はだかではだかの子をだいてゆふべ

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―四方のたより― 台風6号接近

大型の台風6号が、午後3時現在、高知県足摺岬の東南東約30㎞にあり、進路は北北東、15㎞/hとか。
四国上陸は時間の問題だが、今夜半から明日にかけ、気圧配置ゆえだろうが大きく東へ向きを変えて、近畿・中部一円を襲う模様だ。
どうやら被災地の東北地方は避けられるようで、かりに豪雨のおそれもないとなれば、不幸中の幸いなのだが‥。

<日暦詩句>-37

 「ことばの円柱」  谷川俊太郎「詩人たちの村」より

ヨーハンセバスチアンバツハは、虚空に音の伽藍を築
いたのであるが、私は虚空にことばの円柱を築くので
ある。その円柱は真実という巨大な中空ゆえに、なに
がしかの強度を有する一本の管の構造をしていて、装
飾はすべてそれぞれの無数の毛根で管の中心にむすば
れている。
即ちそれは瘡の全種類を含んでいると云えよう。
円柱の支えているものは、あらゆる重みなのであつ
て、この重みには当然円柱自体のこうむつている地球
の引力も加わつているが、円柱の上に何か目に見える
ものがのつかつているかというとそうではない。円柱
の上には目に見えるものは何ものつかつてない。
ただ時折、ごく僅かな塵(おそらくは流星塵)が、し
ばらくの間つもることがあるけれど、やがて強い偏西
風のために吹き飛ばされてしまう。
他の人間たちが、有史以前から築きつづけた円柱も、
そこここに残つていて、或るものは既に廃墟のもつ落
ち着きと気どりを有しているが、それらの円柱に関し
ては、その強度も高さも直径も、いまだかつて正確に
測量されたためしがない。だからそれらが支えてきた
重みの総量を計算するすべは、依然として失われてい
るのである。

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-191

7月19日、晴れ、いよいよ天候もきまつたらしい、私の心もしつかりしてくれ、晩年の光を出せ!
此宿の漬物はなかなかうまい-木賃自炊だが、朝の味噌汁と漬物とは貰へる、今日此頃の私は無一文だから漬物でお茶漬さらさら掻きこんでゐる-、殊に今朝は茗荷がつけてあつた、何ともいへない香気だ、暑さを忘れ憂鬱を紛らすことが出来る。
夏は浅漬がよい、胡瓜、茄子、キヤベツ、何とか菜、時々らんきようも悪くない、梅干しもありがたい。

※表題句の外、3句を記す

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Photo/川棚温泉、大楠の全景-’11.04.30


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2011年7月18日月曜日

朝からぴよんぴよん蛙

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―表象の森―原発終末論

・小出裕章「原発のウソ」扶桑社新書
3.11震災による福島原発の破局的状況を抱える現在において、本書がベストセラーとなるのは当然すぎることだろう。とにかく解りやすい、一気呵成に読める。原発破局の実態が、客観的事実に裏づけられつつ簡潔明瞭に解き明かされいくコンパクトな全7章182頁。
終盤の6章で取り上げられる、浜岡原発や上関原発、六カ所村の再処理施設、高速増殖炉もんじゅ等の問題点などにいたっては、その終末的実態にただもう暗澹とするほかない。

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初版三刷、いま話題の本ではあるが、日経新聞ベストセラー-6/29-1位、ジユンク堂-3位、紀伊国屋-5位、Amazon-総合12位、新書1位といった売れ行き、さらに広く読まれることを期す。

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-190

7月18日、晴れて暑い、ぢつとしてゐて汗がにじみでる、湯あがりの暑さは、裸体になることの嫌いな私でも、褌一つにならずにゐられない。
昨日の行乞所得の残金全部で切手と端書とを買つた、それでやうやく信債の一部を果した。
酒が好きなために仏門に入るやうになり、貧乏になつたために酒毒から免れてゐる、世の中の事は変なものであるわい-酒のために自己共に苦しみ悩んだ事はいふまでもないが-。

※表題句の外、3句を記す

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Photo/青海島の奇巌めぐり-’11.05.01


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