2012年2月1日水曜日

はれてひつそりとしてみのむし

Kumano_syoyo_11

-表象の森- 永井隆と如己堂

先夜、たった二畳一間の小さな家屋の写真に誘われて、長崎原爆被災の医師、永井隆の著書「長崎の鐘」と「この子を残して」を青空文庫で読んだ。

爆心地から700mの長崎医大で被爆した彼は、白血病を負いつつ戦後の6年を生きた。
命日は’51-S26-年5月1日、享年43歳。その死に至るほぼ3年の月日を過ごしたのが写真の家屋、如己堂である。
その名の由来は、己を愛するが如く他者を愛せよ、と自身に課すべく付けられたという。

Nyokodou
8月9日の長崎への原爆投下、その直後から医師である彼は、重傷を負いつつも、猖獗きわまる被災者たちの救護活動に明け暮れた。
明くる10日になって、やっと帰宅した彼は、廃墟となった家の台所跡に、骨だけに変わり果てた妻の遺骸を見いだし、その骨片を拾い集め、埋葬する。
偶々、祖母宅へ行っていた二人の子ども、兄・誠一と妹・茅乃は原爆を免れ無事だった。

「長崎の鐘」-原爆投下の瞬間からはじまり、自ら被爆しながら直後の混乱のなかの救護活動、医師ならではの被爆者たちの克明な症状変化の実態、そして無条件降伏の詔勅、そして‥。
これは、高貴な精神の、慟哭の記録である。

「この子を残して」-敬虔なカトリシズムと、放射線物理療法の医師という二面を併せもつこの高貴な魂は、自身の死期が迫りくるなかで、この世に残しゆく幼い兄妹の身をさまざまに案じつつも、揺るぎのない信仰に支えられ、あくまで沈着に父からの二人への遺言の書として、日々の思いを綴っている。
それは、精神の桎梏が激しさを増すほどに、かえって高みへと昇華していく運動を示し、なればこそ、幼な児たちへと綴られた言葉は、狂おしいほどの愛となって、読む者に伝わりくるのだ。

-1月の購入本-
帚木蓬生「蠅の帝国 –軍医たちの黙示録」新潮社
米原万里「オリガ・モリソヴナの反語法」集英社文庫
宮崎市定「中国史の名君と宰相」中公文庫
田尻祐一郎「江戸の思想史 –人物・方法・連環」中公新書
南直哉「語る禅僧」中公新書
佐藤勝彦「量子論を楽しむ本」PHP新書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「十二夜」ちくま文庫 中古書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「オセロー」ちくま文庫 中古書
W.シエイクスピア/松岡和子訳「お気に召すまま」ちくま文庫 中古書

-図書館からの借本-
星野英紀・浅川泰宏「四国遍路 –さまざまな祈りの世界」吉川弘文館
原口剛.他「釜ケ﨑のススメ」洛北出版
八木久美子「グローバル化とイスラム」世界思想社

-12月の購入本-
サイモン.シン「フエルマーの最終定理」新潮社 -中古書-
サイモン.シン「宇宙創生 -上-」新潮文庫
サイモン.シン「宇宙創生 –下-」新潮文庫
岩田義一「偉大な数学者たち」ちくま学芸文庫
矢部孝・山路達也「マグネシウム文明論」PHP新書
G.ガルシア=マルケス「予告された殺人の記録」新潮文庫
鷲田清一「ぐずぐずの理由」角川書店
海渡雄一「原発訴訟」岩波新書
ジヤツキー.エバンコ「Dream With Me」CD

-図書館からの借本-
河本真理「切断の時代 -20世紀におけるコラージユの美学と歴史」ブリュッケ

―山頭火の一句― 其中日記-昭和9年-265

2月13日
晴れてあたたか、曇つてあたたか、ぢつとしてゐても、出て歩いてもあたたか。
樹明君を訪問して、切手と煙草と酒代を貰つた。
倦怠、無力、不感。
夜を徹して句作推敲-この道の外に道なし、この道を精進せずにはゐられない-。

※表題句の外、5句を記す


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