2010年9月27日月曜日

昼月に紙鳶をたたかはせてゐる

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―日々余話― バイオフィルム

いくつか購読しているメルマガのなかに、たしか以前にも触れたことがあるが、(財)生物科学研究所の主任研究員を務めるI.A氏による「明快!森羅万象と百家万節の系譜」というのが、毎週土曜日に配信されている。
普段、あまり熱心な読者ではないのだが、最新号の「生体防衛論」のなかで話題に供されていた「バイオフィルム」の語に眼が惹かれた。以下、その一文から引用させていただく。

「多細胞生物のような細菌社会」
-細菌も目に見えるような巨大な社会を作り上げる-
小さな細菌が目に見えるような巨大な社会を作り上げることがわかってきました。バイオフィルムと呼ばれます。原始の海ではバイオフィルムのような 原核生物の社会が存在していたのではないでしょうか。
バイオフィルムとは微生物が排泄するスライムで包まれた微生物の集合体です。無生物もしくは生きた表面に付着しています。歯の上に付いたプラー ク、パイプのヌルヌル、花を1週間いけておいた花瓶の内部のゲル状の薄膜など。
バイオフィルムは水があるところならどこでも、台所でも、コンタク トレンズでも、免疫力が弱っていれば、動物の腸にもできます。自然界の細菌の99%以上はバイオフィルム社会に住んでいます。ほとんどの細菌は無害です。
中には有益な働きをする細菌もいます。たとえば、汚水処理プラントはバイオフィルムの働きで水から汚染物を除去します。一方、問題も起こします。 バイオフィルムは金属性のパイプを腐食させたり、水フィルターを詰まらせたり、病院でインプラント(留置器具)の拒絶反応を起こしたり、飲料水を 汚染させる細菌を保持します。
微生物学者は病原菌をターゲットにしてきましたから、伝統的に実験室内の培地に発育する細菌に焦点を当ててきました。菌を分離して、純粋培養した 菌を感染させることで病気が起こることを確認します。コッホの三原則といいます。ワクチンを作るにも菌を純粋培養する必要がありました。しかし、 微生物学者は最近になって自然界では多くの細菌はバイオフィルムとして集って暮らしていることに注目しています。培地の中とバイオフィルムの中では細菌の振舞いは異なっています。

-細菌は多様な環境下で生きるための仕組みを持っている-
微生物はきれいな水に落ちるといった飢餓状態に直面すると、固体表面への親和性を高めるために細胞壁の構造を変化させます。外膜のタンパク質と脂質の構成を変化させ、細胞壁を疎水性にします。疎水性の細菌表面はプラスチックのパ
イプ表面に引きつけられます。
細菌は持っている遺伝子セットの中から、環境の変化に合わせて異なるセットの遺伝子のスイッチを入れて変身します。たとえば、菌がガラスにつく と、アルギン酸塩(スライムの粘着性物質)の合成に関与する遺伝子にスイッチが入り、細菌がアルギン酸塩に取り囲まれるとそのスイッチを切りま す。固着菌と浮遊菌とでは、細菌細胞壁に存在するタンパク質のうち、30~40%が異なっています。
大腸菌の遺伝子は約4000ありますが、培養液で増やす場合、そのうちの半分しか使いません。つまり、半分あれば基本的な増殖ができるわけです。 残りの半分は何のためにあるのでしょうか。現在の仮説では多様な環境下に適応するための遺伝子であると考えられています。多様な環境下とは、他の 生物体内、清浄な環境下、捕食者の多い環境下、低温、高温。乾燥状態などです。いままでの細菌学は実験室内での分離培養に力点が置かれていたた め、これらの遺伝子の存在自体がわかっていませんでした。

-細菌もコミュニケーションする-
バイオフィルムのような複雑な社会を作るにはコミュニケーション分子が必要です。細菌のコミュニケーション・システムをクオラム・センシングと呼 びます。細菌には目も耳もないですから、コミュニケーションには水に溶ける分子が使われます。たとえば、細菌はシグナル分子(オートインデュー サ-autoinducer)の量を測ることで、自分達の細胞密度を感知できます。
Autoinducerはビブリオ属細菌における菌数依存的な蛍光物質の生産という現象から見つかりました。緑膿菌をはじめとする多くの病原細菌がクオラ ムセンシングを用いて病原因子の発現をコントロールしていますし、autoinducer分子が生体細胞に対しても多彩な影響を及ぼすことが報告され、菌側と生体側の両面から感染症の発症に関与することがわかってきました。

人間に限らず、脊椎動物は腸内やそのほかの粘膜にたくさんの細菌が棲みついています。お互いの存在が、お互いの利益になっている=相利共生が成 り立っていると、細菌と人間が共同生活をしていることになります。ゲノムの面から俯瞰すると、進化(遺伝子の変化)が急速な細菌ゲノムと、ゆっく りとした人間ゲノムがお互いに助け合って、地球環境の変動に立ち向かい、うまく立ち回っているように見えます。時にはけんかすることもあります。 人間と細菌叢はユニークな生態系(ecology)を形成し、共に進化(co- evolution)しているのでしょう。


―山頭火の一句―
行乞記再び -106
4月16日、薄曇、市街行乞、宿は同前

福岡は九州の都である、あらゆる点に於て、-都市的なものを感じるのは、九州では福岡だけだ。
今日の行乞相はよかつた、水の流れるやうだつた、-まだ雲のゆくやうではないけれど-、しかし福岡は-市部はどこでも-行乞のむつかしいところ、ずゐぶんよく歩いたが、所得はやつと食べて泊つて、ちよつぴり飲めるだけ。
一銭、一銭、そして一銭、それがただアルコールとなるばかりでもなかつた、今日は本を買つた、-達磨大師についての落草談-、読んで誰かにあげやう、緑平老にでも。

春を感じる、さくらはあまり感じない、それが山頭火式だ。
夜は中洲の川丈座へゆく、万歳オンパレードである、何といふバカらしさ、何といふホガらかさ。
-飲んだ、歩いた、歩いた、飲んだ-そして今日が今夜が過ぎてしまつた、ただそれだけ、生死去来はやつぱり生死去来に御座候、あなかしこ。

夜は万歳を聞きに行つた、あんまり気がクサクサするから、そしてかういふ時にはバカらしいものがよいから、-可愛い小娘がおぢさんおぢさんといって好意を示してくれた。
世の中味噌汁! 此言葉はおもしろい。
今夜、はじめて蕨を食べた、筍はまだ。

※表題句の外、2句を記す

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Photo/寄席の川丈座は、中洲の川丈旅館の隣にあったという

09272
Photo/屋台が建ち並ぶ現在の中洲夜景


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