2011年2月12日土曜日

さみしうて夜のハガキかく

Dc09092684

―四方のたより―

<日暦詩句>-19
ぼくたちは自分の脂で煮つめられ
自分の脂に浮いていた
眼をあけたまま
錫びきの罐に密閉されて――
何の音もきこえなかった

或る日 ぼくたちは解放された
そして
途方もなく巨きい屋敷の塀の外へ
空罐は抛り出された
だが その時
ぼくたちは もう無かった
  ―村野四郎「魚における虚無」-昭和29年

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-151
6月8日、同前、吉見行乞。

夜が明けきらないのに眼がさめたので湯へゆく、けふもよい日の星がキラキラ光つてゐる。‥
朝湯千両、朝酒万両。
朝から子供が泣きわめく、あゝ、あゝ、あゝ。

吉見まで3里歩いて行乞3時間、また3里ひきかへす、私の好きな山道だからちつとも苦にならない。
満目の青山、汝の見るに任す、―といつた風景、いつまでもあかずに新緑郷を漫歩する。
農家は今頃よつぽど忙しい、麦刈り、麦扱ぎ、そして蚕だ、蚕に食はせるためには人間は食う隙がない、そして損だ!
今日の行乞相は最初悪くして最後がよかつた、彼等が悪いので私も悪かつた、私が善いので彼等も善かつた、行乞中はいつも感応といふ事を考へさせられないことはない。
暑かつた、真ツ陽に照らされて、しばらく怠けていたために。-略-

ここはおもしろいところだ、妙青寺山門下の宿で、ドンチャン騒ぎをやつてゐる、そしてしづかだ!
私は一人で墓地を歩くのが好きだ、今日もその通りだつた、いい墓があるね、ほどよく苔むしてほどよく傾いて。―
川棚温泉の欠点は、風がひどいのと、よい水のないことだ、よい水を腹いつぱい飲みたいなあ!

-略- 緑平老から、いつもかはらぬあたたかいたよりがあつた、層雲6月号、そこには私のために井師のともされた提灯が照つてゐた。‥

※表題句の外、7句を記す

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Photo/下関市吉見町あたりの全景

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Photo/吉見港から望む竜王山


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