2011年2月24日木曜日

あるだけの酒のんで寝る月夜

Santouka081130070

―四方のたより― チカラビトの世界

力士―チカラビトはいつ、どこで生まれたか。
草原と砂漠のまじりつつ果てもなくつらなるアジアの北辺、現在の地図でいえばモンゴル共和国のしめているところだったろう。

と、始まる宮本徳蔵の「力士漂泊」は、「相撲のアルケオロジー」と副題するように、まさに相撲の考古学-Archaeology-というに相応しい。

本書の初版は85(S60)年12月、翌々87年の読売文学賞を受賞している。

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とにかく面白い、前半のⅠ-チカラビトの彷徨、Ⅱ-チカラビトの渡来、Ⅲ-チカラビトの栄光と悲惨、Ⅳ-鎮魂のパフォーマンスの四章は、とりわけ愉しく秀逸だ。

高句麗の旧都だった現在の中国吉林省集安県の片田舎に残る「角抵塚」のこと、
なぜ、中国にチカラビトが見あたらないのか、
現在の朝鮮半島において盛んに行われるシルム-いわゆる韓国相撲-と呼ばれる競技、
日本へと渡来したチカラビトたちは「健児-こんでい-」とも呼ばれ、また「隼人」でもあった、
桓武天皇の代に始まる「相撲節」、またこれに関わる「部領使-ことりづかい-」のこと、
金剛力士信仰に基づく金剛界曼荼羅との関連、等々、

歴史的民俗学的知見に富んでおり、このところ八百長問題で騒擾とした相撲関係者らやマスコミに、あらためて本書を繙くべしと言いたいくらいだ。

八百長騒動といえば、このたびの問題が発覚、表面化したのが今月2日のことで、奇しくも同じ日、この著者宮本徳蔵氏は、肺炎のため、80歳で死去しているのだが、この奇妙な偶然をなんとみるべきか‥。

<日暦詩句>-20
空は青い
空は他人の恋でいっぱいだ
おれはおれの悲しい肺臓の重たい石に手をあてる
それをたたくと錆びた牡蠣殻の音がする
それはつめたい
それは動かない
おれの生きている肉体の中でその部分だけが死んでいる
死んでしまった地球の半分
おれはそれをかかえて海へ出る
海は青い
海は魚の恋でいっぱいだ
海は青い炎をあげて
海の言葉をしゃべる
化石したおれの恋が
海の鏡を流れる
  ―三好豊一郎詩集「囚人」所収「四月馬鹿」より-昭和24年

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-153
6月10日、同前。

晴、めづらしい晴だつたが、それだけ暑かつた。
朝、宿の主人が、昨夜の寺惣代会では、私の要求は否定されたといふ、私はしみじみ考へた、そして嫌な気がした、自然と人間、個人と大地。‥
野を歩いて青蘆を切つて来て活けた、何といふすがすがしさ、みづみづしさぞ、野の草はみんなうつくしい、生きてゐるから。
つばくろがよくうたふ、此宿にも巣をかけて雛をかへしてゐる。-略-

彼女から送つてくれた荷物が来た、フトン、ヤクワン、キモノ、ホン、チヤワン、ヰハイ、サカヅキ、ホン、カミ、等、等、等。
その荷物の中から二通の手紙が出て来た、一つは彼に送金した為替の受取、他の一つはS子からのたより、前者はともかくも、後者はちょんぴり私を動かした、悪い意味に於て、―なるほど、私は彼女が書いてゐるやうに、心の腐つた人であらうけれど、―これは故意か偶然か、故意にしては下手すぎる、私には向かない、偶然にしてはあまりに偶然だ。-略-

夕方散歩する、いそがしい麦摺機の響、うれしさうな三味の音と唄声。
今日はいやにゲイシヤガールがうろうろしてゐる。

私の因縁時節到来! 緑平老へ手紙を書きつつ、そんな感じにうたれた。
昨夜は幾夜ぶりかでぐつすり眠つたが、今夜はまた眠れないらしい、ゼイタク野郎め!
若夫婦の睦言が、とぎれとぎれに二階から洩れてくる、無理もない、彼等は新婚ほやほやだ。
どうしてもねむれないから、また湯にはいる、すべてが湯にとける、そしてすべてがながれてゆく。‥‥

※表題句の外、6句を記す

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Photo/山頭火句碑「湧いてあふれる中にねてゐる」―川棚グランドホテルのロビーにある

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