2010年12月3日金曜日

窓一つ芽ぶいた

Santouka081130056

―表象の森― 辻邦生の小説世界と現代詩の森

きのうに続いて11月の購入本など。
この月は辻邦生特集といった趣き。それと30年代から60年代へと現代詩が辿った変遷、詩人ら51人を網羅したアンソロジー「言語空間の探検」など、学芸書林の「全集現代文学の発見」シリーズに特色。亀井孝ら編集の「日本語の歴史」シリーズもいずれ読んでみたい。

―11月の購入本―
・辻邦生「背教者ユリアヌス」中央公論社
著者自身の語るところ「時代の大きな変革期には、つねに時代を象徴するごとき人物が、壮大な悲劇を強いられて、歴史の中に立ちはだかる。背教者ユリアヌスが立たされたのは、まさに古代的現実が、激しくゆすぶられ、古代を支配したあらゆる精神、人間観、価値観が危機に立たされた四世紀から五世紀への過渡期である。現在のイスタンブールにローマから都をうつし、コンスタンティノボリスを建設し、キリスト教を国教として承認し、ピザンツ帝国の基礎をひらいたコンスタンテイヌス大帝の甥にうまれ、自らキリスト者として洗礼を受けたユリアヌスは、その燃えつきるような32年の短い生涯を、すべて古代異教の復興に賭け、音をたてて崩れる地中海古代を支えようと最後の悲劇的な苦闘をつづけるのである。」と。「音楽的で絵画的で、光り輝くような、それでいて抑制の効いた文体はそれだけでも至宝のようで、まさに読み終わるのが惜しくなる。辻邦生を読まずして「本読み」というなかれ。」と、旧制高校時代からの親友である北杜夫に絶賛させた長大な叙事詩。72年初刊の中古書。

・辻邦生「辻邦生が見た20世紀末」信濃毎日新聞社
90年代とはどんな時代だったのか、辻邦生が90年8月から99年7月までの10年、信濃毎日夕刊「今日の視角」に連載した433回の掌編エッセー。

12033
・辻邦生/山本容子「花のレクイエム」新潮社
月ごとの花をテーマに、版画家と共作した12の幻想的掌編。96年初版、中古書。

・辻邦生「辻邦生歴史小説集成-1」岩波書店
安土往還記、十二の肖像画による十二の物語、十二の風景画への十二の旅、を収録。93年出版の中古書。

・増谷文雄/梅原猛「知恵と慈悲「ブッダ」-仏教の思想-1-」角川文庫
角川の仏教の思想シリーズ、ブッダの偉大なる知恵と慈悲の思想をギリシア哲学やキリスト教思想と対比しつつ、その現代的意義を探る。

・櫻部建/上山春平「存在の分析「アビダルマ」-仏教の思想-2-」角川文庫
同上第2巻、5世紀頃に輩出した世親の仏教思想を軸にその哲学的側面を根源から捉え直す。

・亀井孝/他「日本語の歴史-1 民族のことばの誕生」平凡社ライブラリー
日本語を日本人の歴史をとおして把握しようとした昭和40年代前半初版の全7巻・別巻1の復刊シリーズ、その第1巻は、日本語の起源と日本人の起源から説き明かす。

・亀井孝/他「日本語の歴史-2 文字とのめぐりあい」平凡社ライブラリー
同上、第2巻は、音韻構造も統語構造も異なる中国の漢字を如何にして数百年の歳月をかけ日本語の文字へと取り込んできたか。

・ミシエル・レリス「幻のアフリカ」平凡社ライブラリー
刊行当初は発禁の憂目にあったという、大戦間期のアフリカの貌が立ち現れる長大な民族誌的日記。1068頁もの大部の文庫本化が話題になっている。

・安西冬衛/他「言語空間の探検 全集現代文学の発見-13」学芸書林
「軍艦茉莉」の安西冬衛や西脇順三郎の「Ambarvalia」など、30年代から60年代に到る現代詩の成立を鳥瞰する51人の詩人、歌人、俳人を網羅する、69年出版の中古書。

・井伏鱒二/他「日常のなかの危機 新装版全集現代文学の発見-5」学芸書林
同上シリーズ全17巻の新装版で、02年から順次再版されているその一、太宰治の「桜桃」、椎名麟三の「神の道化師」など14作を収録、中古書。

・大岡昇平/他「証言としての文学 新装版全集現代文学の発見-10」学芸書林
同上、大岡昇平の「俘虜記」、長谷川四郎の「シベリヤ物語」など15作を収録、中古書。

・吉岡幸雄「日本の色を歩く」平凡新書
著者は京都の老舗染屋の当主、化学染料には出せない日本の伝統の色、朱・赤・藍・黄・黒・白・紫を求め全国を旅するなかで、染色と色の知識が存分に語られてゆく。

・近藤太一「知的発見の旅へ」文芸社
06年初版のツアーコンダクターによるエッセイで著者は高校同期、その誼で中古書を購ってみたが、扉に「ご恵仔」と署名あり、どうやら贈呈本が古書店に廻ったものとみえる。

―図書館からの借本―
・「世界の文字の図典」吉川弘文館
古代文字から現代の文字まで歴史上に現れた全ての文字を網羅、1200点もの図版でわかる、文字の大図鑑。

・横田冬彦「天下泰平 日本の歴史-16」講談社
元和偃武が成り、<東照大権現>の鎮護のもと、対外的には鎖国という虚構の華夷秩序をうち立て、国内には徳川の平和を実現する。武力を凍結された軍事集団、武士は自らをどう変えていくのか。戦乱の世を通じて獲得された人々の自治は、この新しい武家国家とどう折り合いをつけ、近世の町・村の仕組みを生み出していくのか。

・辻邦生「辻邦生全集 15」新潮社
小説への序章-神々の死の後に/森有正-感覚のめざすもの/トーマス・マン/薔薇の沈黙-リルケ論の試み、を収録。

―山頭火の一句― 行乞記再び -120
4月30日、雨后曇、后晴、再び緑平居に入る。

雨、雨、かう雨がふつてはやりきれない、合羽を着て、水に沿うて、ぶらぶら歩いて、緑平居の客―厄介な客だと自分でも思つてゐるーとなる。

雨後の新緑のめざましさ、生きてゐることのよろこびを感じる。
夕方、予期した如く、緑平老が出張先から戻つて来た、酒、話、ラヂオ、‥友情のありがたさよ。

※表題句の外、5句を記す

当時、明治鉱業豊国病院の内科医であった木村緑平は、田川郡糸田町に住んでいた。現在なら平成筑豊糸田線で田川後藤寺駅から大藪、糸田と二駅。

12030
Photo/その糸田駅からほど近い皆添橋のレリーフには「逢ひたい捨炭山が見えだした」の句碑

12031
Photo/その糸田の木村緑平旧居跡下にある緑平の句碑「聴診器耳からはづし風の音聞いてゐる」

12032
Photo/同じく緑平旧居のそばに立つ山頭火句碑「逢うて別れてさくらのつぼみ」


人気ブログランキングへ

0 件のコメント:

コメントを投稿