2011年7月2日土曜日

ほつくりぬけた歯で年とつた

Santouka081130004

―表象の森― cargo cult

「本当のカーゴ・カルト-cargo cult 積荷信仰-の特徴は、結果の生産そのものよりも結果の期待を優位におく点にある。
これまで期待通りには決して起こらなかった、ありえないような成功を予告するという点で、開発政治―発展主義のイデオロギー―もまた、ある意味カーゴ・カルト―欲望の対象となっても、実際には決して生み出されることのない財を救済史観的に期待する行為―ではないだろうか。」 ―Bernard Hours

<日暦詩句>-32

070202
「根府川の海」   茨木のり子

根府川
東海道の小駅
赤いカンナの咲いている駅

たっぷり栄養のある
大きな花の向こうに
てーいつもまっさおな海がひろがっていた

中尉との恋の話をきかされながら
友と二人ここを通ったことがあった

あふれるような青春を
リュックにつめこみ
動員令をポケットに
ゆられていったこともある

燃えさかる東京をあとに
ネーブルの花の白かったふるさとへ
たどりつくときも
あなたは在った

丈高いカンナの花よ
おだやかな相模の海よ

沖に光る波のひとひら
ああそんなかがやきに似た
十代の歳月
風船のように消えた
無智で純粋で徒労だった歳月
うしなわれたたった一つの海賊箱

ほっそりと
碧く
国をだきしめて
眉をあげていた
菜ッパ服時代の小さなあたしを
根府川の海よ
忘れはしないだろう?

女の年輪を増しながら
ふたたび私は通過する
あれから八年
ひたすらに不適な心を育て

海よ

あなたのように
あらぬ方をながめながら‥‥。

  -詩集「対話」1955-S35-年より

070203
Photo/根府川の海

―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-174

7月2日、同前。
雨、いかにも梅雨らしい雨である、私の心にも雨がふる、私の身心は梅雨季の憂鬱に悩んでゐる。
入浴、読経、思索、等、等、等。
発熱頭痛、まだ寝冷がよくならないのである、歯がチクチク痛む、近々また三本ほろほろぬけさうだ。
聞くともなしに隣室の高話しを聞く、在郷の老人達である、耕作について、今の若い者が無智で不熱心で、理屈ばかりいつて実際を知らないことを話しつづけてゐる、彼等の話題としてはふさはしい。-略-
夕方、五日ぶりに散歩らしい散歩をした、山の花野の花を手折つて戻つた。
今夜初めて蚊帳を吊つた、青々として悪くない-私は蚊帳の中で寝る事をあまり好かないのだが-、それにしてもかうした青蚊帳を持つてゐるのは彼女の賜物だ。
夜おそく湯へゆく、途上即吟一句、-
 「水音に蚊帳のかげ更けてゐる」

※表題句の外、11句を記す

070201
Photo/青海島、奇岩の絵模様-‘11.05.01


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