2011年8月30日火曜日

稲妻する過去を清算しやうとする

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-表象の森― 今月の購入本

・B.エルンスト「エッシャーの宇宙」朝日新聞社
エツシヤー自身との共同作業で、その全作品の制作動機やアイデアなどの成長過程をまとめあげた労作。訳は坂根巌夫、初版’83年刊の第15刷版-‘90-の中古書

・ヘーゲル「歴史哲学講義 上」/「 々 下」岩波文庫
長谷川宏という訳者を得て、新しい読者層をひろげたヘーゲルの世界史講義。

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・G.ブルーノ「無限、宇宙および諸世界について」岩波文庫
地動説や宇宙の無限を唱え、異端者として焚刑に処された修道士ブルーノの、長らく禁書とされてきた書。

・長谷川宏「いまこそ読みたい哲学の名著」光文社文庫
アラン・シエークスピアにはじまりウイトゲンシユタイン・M.ポンテイまで、12著作を採り上げた鑑賞ガイダンス。

・竹下節子「聖者の宇宙」中公文庫
驚いたことに巻末には50頁に及ぶ詳細な聖者カレンダーなるものが併載されている。

・秋山巌「山頭火版画句集-版画家・秋山巌の世界」春陽堂
100の句と版画を掲載した廉価版の秋山巌版画集

・「つなみ-被災地のこども80人の作文集」文藝春秋


―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-233

8月30日、風が落ちておだやかな日和となつた、新居三日目の朝である、おさんどんと坊主とそして俳人としてのカクテル。
今日もまた転居のハガキを書く-貧乏人には通信費が多すぎて困る、といつて通信をのぞいたら私の生活はあまりに殺風景だ-。
樹明兄から、午後1時庵にふさはしい家を見に行かう、との来信、一も二もなく承知いたしました。大田の敬坊-坊は川棚温泉に於ける私を訪ねてくれた最初の、そして最後の友だつた-から、ありがたい手紙が来た、それに対して、さつそくこんな返事をだしてをいた。-
‥‥私もいよいよ新しい最初の一歩-それは思想的には古臭い最後の一歩-を踏みだしますよ、酒から茶へ-草庵一風の茶味といつたやうな物へ-山を水を月を生きてゐるかぎりは観じ味はつて-とにもかくにも過去一切を清算します。‥‥
-略-、樹明兄に連れられて、山麓の廃屋を見るべく出かけた、夏草ぼうぼうと伸びるだけ伸んでゐるところに、その家はあつた、気にいつた、何となく庵らしい草葺の破宅である、村では最も奥にある、これならば「其中庵」の標札をかけても不調和なところはない、殊に電灯装置があつたのは、あんまり都合がよすぎるよ。
帰途、冷たいビール弐本、巻鮨一皿、これだけで二人共満腹、それから水哉居を訪ねる-君は層雲派の初心晩学者として最も真面目で熱心だ-。
樹明兄の人柄が渾然として光を放つた、その光に私はおぼれてゐるのではあるまいか。
其中庵、其中庵、其中庵はどこにある。
廃屋から蝙蝠がとびだした、私も彼のやうに、とびこみませう。
水哉居でよばれた酢章魚はほんたうにおいしかつた、このつぎは鰒だ。
ふけてから、ばらばらと雨の音。
今夜は寝つかれさうだ、何といつても安眠第一である、そして強固な胃袋、いひかへれば、キヤンプをやるやうなもので、きたないほど本当だ。

※表題句のみ記す

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Photo/北の旅-2000㎞から―函館、トラビスチヌ修道院にて-’11.07.24


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